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サイレントチェンジは、メーカーや製造業で話題になっている課題です。サプライチェーンが複雑化している現代、サイレントチェンジの発生リスクが高まっています。記事では、メーカーや製造業界に勤め、製品の品質管理に関わる方々に向けて、サイレントチェンジの意味・事例・原因・防止策をまとめて解説します。

本ページの構成

1. サイレントチェンジの意味

サイレントチェンジとは、製品の製造過程において、部品や材料のサプライヤーが発注企業の許可なく、勝手に製品の仕様を変更し納品することを指す言葉です。

国内メーカーが製品の製造コストを抑えるため、海外企業から部品や材料の調達を広げるなかで、サプライチェーンが複雑化し、近年、このサイレントチェンジの問題が増加。

製品の性能不足や早期劣化を招くため、メーカーの致命的なブランド毀損や大規模なリコールにつながる恐れのある、見逃せない問題なのです。

図1: レーザダイオード①は、アルカリ原子の共鳴周波数に同調する光を生成する。光ビームはコリメートされ、アルカリ原子の蒸気を含むガラスセル②を通過するように進む。透過光ビームは、フォトダイオード③に向かう。

1-1. サイレントチェンジが原因と思われる事故件数

発注企業が知らぬ間に、製品の部品や材料が差し替えられ、そのまま市場に流通してしまうと製品本来の機能をもたなかったり(性能不足)、基準より早く劣化がおきてしまう(早期劣化)トラブルにつながる恐れがあります。

工業製品の品質評価等を行うNITE(ナイト / 製品評価技術基盤機構)によると、2017年10月時点で、サイレントチェンジが原因でおきたと考えられる火災は800件超にも及ぶと報告されています(うち、ACアダプターからの発火:120件・PC内部の配線端子からの発火:681件)。

経済産業省の報告だけでなく、NHK『クローズアップ現代』でも、サイレントチェンジの問題が取り上げられ、放送されています。(2017年10月24日放送:家電が突然発火する!? 〜知られざる”サイレントチェンジ”〜)

※参考元:経済産業省「新しい製品安全課題 “サイレントチェンジ”の現状」

2. 具体的なサイレントチェンジの事例

では、具体的には製品のどんな部分が勝手に仕様変更され、問題を引き起こしているのでしょうか。経済産業省の「新しい製品安全課題 “サイレントチェンジ”の現状」の資料をもとに、2つの事例をご紹介します。

2-1. ACアダプターに赤燐(セキリン)が使用されて発火

ひとつめにご紹介するのは、ACアダプターのサイレントチェンジ事例です。私たちが普段使っている家電用品やPCのコード(ACアダプター)には、通電による発火を防ぐために絶縁部には燃えにくい「難燃剤」が用いられています。

この難燃剤には「臭素系難燃剤」を使うことが仕様で決まっているのですが、無許可に赤燐(セキリン)という材料に変更される事例が報告されています。

燃えにくい難燃特性を満たしている赤燐(セキリン)ですが、耐水加工を施していない場合、経過とともに空気中の湿気と反応し、電導体に変化。電極に含まれている銅が溶けることで、絶縁機能が低下し、発火に繋がってしまうのです。

2-2. 靴底のゴムが塩化ビニル樹脂に勝手に変更

ふたつめにご紹介するのは、靴底のゴムのサイレントチェンジ事例です。一般的に販売されている革靴の靴底はゴム素材になっています。しかし、この靴底が仕様書を無視して「塩化ビニル樹脂」に勝手に変更されている事例が報告されています。

ゴム素材だと、履き心地に弾性があり、一定の摩擦力がはたらくため滑りにくくなります。一方、塩化ビニル樹脂だと、履き心地がカタく、摩擦力がはたらきにくいため、滑りやすく危険です。見た目の色や形状にさほど差がないため、気づかれず流通しているケースがあるのです。

3. サイレントチェンジが発生する背景

このように製品を使用する消費者に危険をもたらすばかりでなく、商品を販売する企業の信頼とブランドを著しく毀損する恐れもあるサイレントチェンジ。では、サイレントチェンジはなぜ発生してしまうのでしょうか。

3-1. 製品のトレーサビリティが確保できていないため

サイレントチェンジが発生する主要な理由のひとつが、「製品のトレーサビリティが確保できていないから」です。トレーサビリティとは、製品の生産・流通過程を追跡できる状態のこと。

製品のトレーサビリティが厳密に把握できる体制であれば、仕様と異なる原料や素材・部品に勝手に変更された時点で、発注先のサプライヤーに対し、事実の確認を行い、場合によっては発注停止措置をとることができるはず。

しかし、発注企業であるメーカーも、製品がどのような生産工程をたどっているのか、全製品の素材・部品を厳密に把握できていないため、サプライヤーがコスト削減を求め、水面下にサイレントチェンジを行なってしまうのです。

3-2. 海外の粗悪なサプライヤーに発注しているため

ふたつめの理由が「海外の粗悪なサプライヤーに発注しているから」です。そもそも、サイレントチェンジが明るみになったのは、国内メーカーが製品の製造コストを抑えるために、海外(特に中国)の費用が安くすむサプライヤーに発注するようになってからです。

市場に流通する製品は、部品を組み立てる「部品メーカー」、部品のもとになる材料を生成する「材料メーカー」、材料のもとになる原料を生成する「原料メーカー」というように、サプライチェーンは多層構造化しています。

製品販売に関する「製造物責任法」では、製品の不具合・欠損で被害が発生した場合、”被害者に賠償金を支払うのは最終製品を製造した事業者”と定められている。

そのため、仮にサプライヤーが不適切な素材・材料・部品を納品しても、商品を販売するメーカーが気づかなければそのまま流通してしまい、責任はメーカーが追うかたちとなってしまうのです。

3-3. メーカー(発注企業)担当者が素材の化学特性に詳しくないため

最後の理由が「発注担当者が素材の化学特性に詳しくないから」です。製品の部品や素材を発注するメーカー側の担当者は、製品の仕様は理解・認識していたとしても、”素材ごとの化学特性”まで正確に理解していないケースがあります。

素材ごとの化学特性を理解していないことで、商品サプライヤーから部品や素材の小さな変更があったとしても、それが製品や消費者にどんな悪影響を及ぼすが気づくことができないのです。

4. サイレントチェンジの防止策

では、どのような対策をとればサイレントチェンジを防止することができるのでしょうか。次は、防止するための正しい対応についてお伝えします。

4-1. 発注時には契約書や仕様書を細かく作成する

サイレントチェンジのひとつめの防止策は、「発注時の契約書や仕様書の内容を細かく作成する」ということです。サプライヤーに発注する際の部品や素材の仕様・作業工程や報告義務など、あらかじめサイレントチェンジにつながる恐れがある点を契約によって防止しましょう。

特にサイレントチェンジの要点である”許可のない材料・素材変更”は、たとえ性能を満たしていたとしても、必ず事前に報告する義務を含めるべきです。そのうえで、初回発注時はもちろんですが、長期的な付き合いのサプライヤーであっても、定期的に契約・仕様の内容を口頭で共有したほうがいいかもしれません。

4-2. リスクの高い発注は避け、適切な距離感を保つ

サイレントチェンジのふたつめの防止策は、「リスクの高い発注は避け、サプライヤーと適切な距離感を保つ」ということです。サイレントチェンジは、メーカーによるコスト削減や納期短縮などのオーダーに応えようとして、サプライヤーによってやむなく手が加えられるケースが少なくありません。

このような事態を防ぐために、サプライヤーに対する無理のある発注は避けるようにしましょう。そして、日頃からサイレントチェンジが起きないよう、サプライヤーとのコミュニケーションを丁寧に行い、信頼関係を築くことも意識しましょう。

どんな理由であれ、サイレントチェーンが不適切であることはサプライヤーも自覚的であることが多いので、お互いの信頼関係や透明性ある関係が築けていることが大切なのです。

4-3. 品質管理機器を導入し、定期的な品質検査を行う

サイレントチェンジの最後の防止策は、「社内に品質管理機器を導入し、定期的な品質検査を行う」ということです。先ほど、「サイレントチェンジが発生する背景とは」の章でも触れましたが、メーカー側に素材の化学特性まで加味した品質検査を行える人材が不足していることも、サイレントチェンジが起きる大きな原因です。

社内に品質検査の専門知識をもつ人材が豊富に在籍している場合はいいですが、そうでない場合は専門知識がなくても品質検査のできる「品質管理機器」を導入しましょう。品質管理機器があれば、本来、長い経験と豊富な知識がなければ難しい品質検査を正しく安定的に行うことができます。

品質管理機器を導入したら、定期的な品質管理を実施することを推奨します。たとえ、長年付き合いのある信頼できるサプライヤーであっても、意図せず、サイレントチェンジが発生している可能性もありますので、ルールを決めて検査しましょう。

5. 今すぐ、サイレントチェンジが起きない仕組みづくりを

サプライチェーンが国内外に多層構造化している現代の製造工程では、サイレントチェンジがどのメーカーで起きてもおかしくありません。

「うちの発注先は信頼できるから」と楽天的に考えるのではなく、防止につながる契約や仕様書を交わし、専門知識がなくても品質検査ができる品質管理機器を導入し、今すぐサイレントチェンジが発生しない仕組みづくりを行いましょう。