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仕事途中での一杯のコーヒー、リフレッシュして集中力を高めるのにとても効果的ですよね。さて、そのコーヒーの原料となるコーヒー豆ですが、産地や収穫後の処理(精製)方法によって多様な風味をもつことになります。コーヒー豆の生産者はその独自の風味を守るために、コーヒーの栽培から精製、出荷に至るまで、伝統的な手技を維持継承しながら、大切にコーヒー豆を生産しています。
しかし、風味の豊かさや希少種などの理由により市場において高値で取引されるコーヒー豆については、産地偽装等による粗悪品の混入・流通が大きな問題となっています。産地偽装は、品質低下によるブランドの棄損だけでなく、正当な生産者の収益の低下にも直結し、そのブランドの維持あるいは生産者の生活をおびやかすことになります。
コーヒー豆は見た目での区別が難しいため、流通段階でコーヒーの産地偽装を見抜くことは簡単ではありません。コーヒー豆をサンプリングし、専門機関に送って各種の化学的分析や機器分析によってコーヒー豆のブランド等を特定することは可能ですが、時間もコストもかかります。コーヒー豆の流通現場でより簡便で即応的な識別手法を用いることができれば、より効果的にコーヒー豆の産地偽装を見抜くことができます。そしてそのような方法が一般的に普及することによって、コーヒー豆の産地偽装の抑止力になるものと考えられます。
携帯型の近赤外分光器を用いてコーヒー豆の近赤外吸収スペクトルを測定し、それを解析することによりコーヒー豆のブランド特定ができれば、流通現場で用いることのできる簡便かつ即応的な識別手法となり得ます。今回は、産地や精製方法の異なるコーヒー豆の近赤外吸収スペクトルを小型近赤外分光器S-G1を用いて測定し、これによってコーヒー豆の識別が可能かどうか、検証してみました。
今回の測定に用いた装置を図1に示します。測定・解析用PC(Windowsタブレット)には、S-G1に付属の標準測定用アプリをインストールし、このアプリを用いて近赤外吸収スペクトルの測定を行いました。
図1.コーヒー豆の近赤外吸収スペクトル測定に用いた装置
コーヒー豆は焙煎前の生豆の状態で近赤外吸収スペクトルを測定することとしました。これは、生豆の流通段階での測定・識別をイメージしていることと、焙煎すると焙煎度合いによってスペクトルが大きく変化すると想定されることを勘案したためです。
産地、品種、および精製方法の異なる以下の5種類(グループ1~5)の生豆をサンプルとして用いました(表1)。なお、コーヒーの生豆は極上珈琲 生豆本舗様(https://www.namamame.jp/)より購入しました(図2)。
| グループ | 産地/名称 | 品種 | 精製方法 |
|---|---|---|---|
| グループ1 | インドネシア | ロブスタ | ナチュラル |
| グループ2 | コロンビア | アラビカ | ウォッシュド |
| グループ3 | ベトナム | ロブスタ | アナエロビック |
| グループ4 | ブラジル | アラビカ | ナチュラル |
| グループ5 | グアテマラ | アラビカ | ウォッシュド |
図2.測定に使用したコーヒー豆の外観
コーヒー豆の近赤外吸収スペクトルは、S-G1の測定部にO-リング(内径7.8 mm)を置き(図3)、そこにコーヒー豆1粒を割れ目側が上になるように置いて測定しました(図4)。
図3.S-G1の測定部にO-リングを設置
図4.コーヒー豆の近赤外吸収スペクトル測定の様子
なお、S-G1による近赤外吸収スペクトルの測定条件は装置にデフォルトで設定されている「Hadamard 1」の条件を用い(測定時間約3秒)、またリファレンスは図1に示した標準反射板RM-2を測定することで取得しています。
コーヒー豆のグループ1からグループ5の各サンプルについて、ランダムに選んだ20個の豆の近赤外吸収スペクトルを測定しました。
測定したコーヒー豆の近赤外吸収スペクトルは、Savitzky-Golay法による平滑化および2階微分処理を行い、識別用のスペクトルデータとしました。
例として、図5にグループ1とグループ5のコーヒー豆の近赤外吸収スペクトル(2階微分処理後)を示します。
図5.コーヒー豆の近赤外吸収スペクトルの例
各グループのコーヒー豆20個について、同様にS-G1による近赤外吸収スペクトル測定およびスペクトル後処理を行いました。得られたデータ集団について主成分分析(PCA、主成分数=3)を行い、二次元のスコアプロットによりグループ間のスペクトルの差異を可視化しました(図6および図7)。
図6.PCAスコアプロット(PC1-PC2)
図7.PCAスコアプロット(PC2-PC3)
図6のプロットを見ると、ロブスタ種であるグループ1とグループ3のスペクトルがほぼ第1象限にプロットされ、アラビカ種のグループは第3象限と第4象限を中心に分布することがわかりました。このプロットにより、S-G1による近赤外吸収スペクトル測定によりコーヒー豆の品種間の識別が可能となることが示唆されました。ただし、このプロットのみでは同一品種内でのグループ区別は難しいと思われました。
一方、図7のプロットを見ると、同じロブスタ種であってもグループ1は第1象限を中心に、グループ3は第4象限を中心に分布しています。またアラビカ種でも、ウォッシュド処理を行っているグループ2およびグループ5は第2象限を中心に、ナチュラル処理のグループ4は第3象限を中心に分布しています。このように、図7のプロットから、同一品種であっても精製方法が異なるものを近赤外吸収スペクトルによって識別できる可能性が示されました。
以上のように、小型近赤外分光器S-G1を用いたコーヒー豆の近赤外吸収スペクトル測定と主成分分析により、コーヒー豆の品種や精製方法の違いを識別できる可能性が示唆されました。測定対象とするコーヒー豆の種類を増やし、またそれぞれのグループにおいて多数のデータを取得し、その上でディープラーニング等の解析手法を駆使することによって、より精度よくコーヒー豆のブランド識別が可能となるものと考えられます。同一ブランドであってもロット間の差などもあると思いますので、そのあたりも今後調査していく必要はあるものと考えられます。
コーヒー豆の産地偽装を流通段階で簡便かつ即応的に見抜くことは、コーヒー豆の産地偽装問題の解決策となり得ます。私たちが日々の生活で飲用するおいしいコーヒーのブランドや生産者の生活を守るために、S-G1のような小型近赤外分光器を用いたコーヒー豆識別技術が今後発展していくことを願っています。
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